世界史の糸

レオナルドやエジソンにはなれないけれど

ジェネラリストでもスペシャリストでもない、一教師の試行錯誤の記録。旧ブログ名:世界史の糸から改題しました。

アメリカの歴史教科書における史料

 アメリカの教科書で史料がどのように用いられているか、その一例を調べた。
 
用いた教科書は Ellis, E. G., Esler, A., World History Connections to Today Teacher's Edition,(Prentice Hall,1999).
 
 この教科書では巻末に「歴史的史料Historical Documents」という形で史料が収録されている。1ページに1史料、計32史料。それぞれのページのレイアウトは規則的であり、史料作成の歴史的背景などのごく簡単な解説、史料の抜粋、史料抜粋部の要約Document in Brief、史料に関連する画像、史料分析Analyzing the Documentという3つの問い、から構成されている。
 日本の教科書に比べれば、学生が自主的に取り組めるように工夫されている点が明らかである(アメリカの歴史教科書はそもそも自学できるように意図され作成されているから当然のことではある)。例えば史料作成の歴史的背景などがあるとないでは読解の難易度は大きく変わってくるのであり、この点教員の説明ありきとなっている日本の教科書とは大きく異なる点である。
 しかし最も大きな相違点はやはり史料分析における3つの問いが設けられていることであろう。これもまた自学を考慮して、史料を読むことによってある程度まではきちんと解が導けるような設問が設けてある。例えば「プタホテプの訓令Instruction of Ptah-hotep」における3つの問いは次のようなものになる。
 
上記の史料の抜粋を読んで、以下の問いに答えよ。
      1. 第4パラグラフの最も適当な要約として適当なものを選べ(4択から選択)。
      2. 著者は息子が自分のアドバイスを聞くように願っている、なぜならー(4択から選択)。
      3. Critical Thinking:Making Inferences  プタホテプの言う「欲深い人間は墓を持たない」とはどういう意味か?
 
 3つの問いのうち、一つ目と二つ目は史料の読み取りがきちんとできていれば比較的簡単に答えられ、設問を通じて史料への理解が深められ、自分の読解が正しいかを確認できるようになっている。また掲載されている各史料すべてにおいて、3つ目の問いはCritical Thinkingとして、単なる史料の読み取りではなく自身の考察を求めるものとなっている。その際にきちんと着目すべき観点が設けられていることは注目すべき点である。日本の教科書にも「考えてみよう」といった文言で考察を促す史料設問が見受けられるが、往々にして非常に抽象的かつ広範なテーマに関するものであることが多いように思われる。こういった日本の問いの形式は、世界史を学習しはじめた生徒にとっては手に余ることが多い。日本の教科書に掲載されている史料に関する(ごくわずかな)問いは、学校現場では一体どれだけ活用されているだろうか。少なくとも自身の教授経験を顧みる限り、実用に耐えるものではないというか、こんな抽象的な問いで生徒が思考し表現をすることなどできない、ということで放置したという記憶しかない。教師が何かしら手を入れることを前提としているのであろうが、それにしてももう少し工夫した、また掲載された史料と教科書本文だけで取り組める問いを掲載してくれてもよいのではないかと思う。
 今後もこの教科書の分析を続けていきたい。