世界史の糸

レオナルドやエジソンにはなれないけれど

ジェネラリストでもスペシャリストでもない、一教師の試行錯誤の記録。旧ブログ名:世界史の糸から改題しました。

紹介:Ellis, E. G., Esler, A., World History Connections to Today Teacher's Edition その6

以前紹介したアメリカの歴史教科書Ellis, E. G., Esler, A., World History Connections to Today Teacher's Edition,(Prentice Hall,1999)の、史料パート紹介の続き。
 
以下、該当文献からの引用。
概要:紀元前268年に始まるアショーカ王の統治において、王は仏教に帰依し、暴力を否定して徳による統治を試みた。アショーカ王は石碑をインド全域に建設することで法令や布告を発布した。
要約Document in Brief:アショーカ王によってインド全域に建設された石碑は、法を公表し、公正な政府を目指すことを約束している。
 
本文:…私(アショーカ王)が行ってきた良き行いは、人々に受け入れられてきた。そのため父母や師に従順な者、老人や心優しき人に敬意を払う者…貧しき人や弱き人、奴隷や使用人に敬意を抱く者は増え続けており、これからも増えていくであろう…そしてこうしたダルマ(Righteousness)の広まりは…2通りの方法によって生じる。一つはダルマ遵守の徹底、もう一つはダルマ遵守を推奨、誓約させることである。私は殺生を禁ずる法を徹底させてきた。しかしダルマの広範な普及は、生けるものを傷つけないことや殺生を避けることを推奨することによってこそ達成される。…
 
史料分析Analyzing the Document:上記の抜粋を参考にして、以下の問いに答えよ。
  1. 抜粋から判断して、アショーカ王は以下のいずれを好むか。
  1. 動物の供犠
  2. 戦争
  3. 日々の儀礼
  4. 宗教的寛容
  1. 抜粋から、アショーカ王について推測できることを選べ。
  1. 独裁者
  2. 裁判官
  1. C.T. Drawing Conclusions
アショーカ王の行いのうち、ダルマを広めるためにもっともよい方法と彼が考えていたのは何か。なぜあなたはそう考えるのか。
 
 
以下、ブログ投稿者のコメント。
 アショーカ王の碑文と、ダルマによる統治の話は必ず授業で扱われる。日本の高校においてはアショーカ王の時代における統治領域を示すものとして石碑が用いられるケースが多く、資料集には石碑の写真と、石碑の分布を示す歴史地図が掲載されている。
 アショーカ王の行った戦争と仏教帰依については講義で話す教員も多いと思うが、実際に碑文の内容を読んだ、もしくは授業で扱ったという教員は少ないのではないだろうか。歴史学研究会編『世界史史料2』に碑文の内容が収録されているが、上記アメリカ教科書に採録されている内容は『世界史史料2』とは異なる部分となっており、正直なところアメリカ教科書採録部分のほうが生徒にはとっつきやすいように思う。上記引用部分からわかるように、アショーカ王の見解や仏教的価値観が強く、端的にあらわされているからである。ダルマによる政治の説明の肉付けとして使いやすいのではないだろうか。
 設定されている問に関しても、「答えを探す」のではなく「文脈から推測する」という思考を要求するものとなっており、こうした問の作り方に関しても参考になる。