世界史の糸

レオナルドやエジソンにはなれないけれど

ジェネラリストでもスペシャリストでもない、一教師の試行錯誤の記録。旧ブログ名:世界史の糸から改題しました。

教材:イングランドとワイン

  • 「大半の年は豊作で、食糧は充分にあった。夏の平均気温は二十世紀の平均よりも○・七度から一・○度高めである。中央ヨーロッパの夏はさらに暑く、現在の平均気温よりも一・四度高かった。五月に霜が降りると、寒さに弱い作物はやられてしまうが、一一〇〇年から一三〇〇年にかけては、そのような霜害もほとんど見られなかった。夏は暑く乾燥した日々がつづき、イングランドでは南部や中央部でもブドウ畑がつくられ、ヘレフォードウェールズとの国境地帯のような北の地域にまで広がっていた。市場向けのブドウの畑は、二十世紀の北限よりも三○○キロから五○○キロ先まで広がっていた。いちばんの温暖期には、多くの領主がイングランド産の極上ワインを通飲したので、フランス人は貿易上の取り決めを結んで、イングランド産ワインが大陸に流入するのを防ごうとした。」出典:ブライアン・フェイガン『歴史を変えた気候大変動』、河出書房新社、55-56pp
 
 
 
  •  百年戦争は様々な要素を取り上げて話をすることができるから(ノルマン=コンクウェスト以来の英仏封建制、ヨーロッパ王族における国際結婚網、王権主導の中央集権化、武器の変化、ジャンヌ=ダルク…)何を取り上げるか迷う。そんな中、百年戦争の一側面として、ワインを巡る攻防に光が当てられてしばらく経つ。
  •  キリスト教聖餐式における重要性、生産地と気候の関係などを扱うことにより、文化や地理に目配せした内容となることが期待される。数年前にワインから見た百年戦争の授業を考案しようとしたが、結局形にならないままここまできてしまった。教員からの一方的な教授になってしまい、単なる蘊蓄に終始してしまいそうだったからである。
  •  最近またこのテーマにチャレンジしてみたいと思い、資料を探していたところ、上記のようなものを見つけた。現代の地理的知識からすると、なかなか興味深い資料である。この資料を用いて従来イングランドで栽培されていたブドウが環境変化により育てることができなくなり…といった形で授業を展開すると、地球環境の変化による影響の大きさを生徒に効果的に伝えられるかもしれない。
  •  ただこの記事を書いていて、ワインはあくまでも切り口に使う程度の方がいいなという気持ちになってきた。百年戦争の含有する多様な側面を切り捨ててしまうのは惜しいし、一面的理解にもなりかねない。せっかく長期間に及ぶ出来事であるのだから、できれば2~3時間くらいを百年戦争に配当して、中世ヨーロッパで学ぶ諸要素をできるだけ多く、具体例を取り上げられるような授業にしてみたいものである。