世界史の糸

レオナルドやエジソンにはなれないけれど

ジェネラリストでもスペシャリストでもない、一教師の試行錯誤の記録。旧ブログ名:世界史の糸から改題しました。

紹介:メモリアルを設計するー理解するだけでなく、考えるために

 
 
以前紹介したタールの歴史授業アイデア集の、各章の興味深い部分をピックアップしていく。
 
  • Tarr, R., A History Teaching Toolbox: Practical Classroom Strategies( Createspace Independent Pub,2016)
  • Tarr, R., A History Teaching Toolbox: Volume Two: Even More Practical Classroom Strategies( Createspace Independent Pub,2018)
 
第1巻 第3章 Transforming and Applying Knowledge
 
第3章からは、メモリアルを設計するDesign a memorialと題された手法を取り上げる。(後述されるようにここでいうmemorialは記念物・記念行事など広い意味で用いられ、一義的に該当する日本語が見当たらないためカタカナで記す)
 
 
手順
問いの提示:何の事件が・どのような人物が記憶されるべきか、そしてそれはなぜか。
その後生徒たちは世界のメモリアルについて、調べる時間を取る
その後以下の質問に答える
  • メモリアルは人々に何を考えさせるのか
  • メモリアルは原因と結果のどちらに焦点を当てるのか
  • メモリアルは静かな内省を促すのか、それとも暴力的な議論を引き起こすのか
  • メモリアルはどのような感情を湧き上がらせるか?後悔・罪悪感・希望・悲しみ・怒り・その他?
  • メモリアルはどのような形をとるか?像・壁画・庭・博物館・その他?
  • どこにそれはあるのか、そしてそれはなぜか?都市・田舎?
  • 最終的に生徒自身にメモリアルを、紙上ないし模型にデザインさせる
 
 
 本文中にも触れられている通り、最初の問いが非常に重要である。何の事件が、そしてどのような人物が記憶されるべきか、そしてそれはなぜかという本質的な問いを、生徒に考えることを促すからである。日本も韓国などを典型としてメモリアルをめぐる問題を抱えている。この活動を通じて、メモリアルをめぐる問題、すなわち歴史をめぐる問題に、生徒自身が自覚的になることが期待される。調べ学習の要素を含むことからも、歴史総合において、一つのテーマに設定して実施をしてみるのがいいのではないだろうか。
 調べ学習をした後、生徒が答えていく質問も、生徒にさらなる思考を促すものである。いかなる形でメモリアルを残すのか、そしてそれをどこに残すのか。こういった要素はすべて一筋縄ではいかない問題をはらんでいるということに、生徒が気づくことは、最初はあまり期待できないかもしれない。しかし教員の方で解説を加えていけば、自然と生徒は形式や場所がはらむ問題や重要性を、自ら考えられるようになるだろう。普段の授業の中でも、学んだ出来事の中で、何をメモリアルにすべきかということを理由と共に記述させるだけでも、十分に思考を働かせる活動になるのではないだろうか。少なくとも単純に、「学んだものの中で何が一番大事だと思うか」などという抽象的な質問よりも、こうしたメモリアルと言う思考のための媒介を通すことによって、より深い思考が期待できることは間違いないと思われる。