世界史の糸

レオナルドやエジソンにはなれないけれど

ジェネラリストでもスペシャリストでもない、一教師の試行錯誤の記録。旧ブログ名:世界史の糸から改題しました。

紹介:Ellis, E. G., Esler, A., World History Connections to Today Teacher's Edition その5

以前紹介したアメリカの歴史教科書Ellis, E. G., Esler, A., World History Connections to Today Teacher's Edition,(Prentice Hall,1999)の、史料パート紹介の続き。
 
以下、該当文献からの引用。
概要:古代ギリシャの哲学者アリストテレスは、プラトンの弟子である。プラトンのようにアリストテレスもまた民主政に疑いをもっており、衆愚政mob ruleに陥る危険性を感じていた。そのためアリストテレスは協力で有徳な指導者による政治を良しとしていた。下に抜粋した『政治学』では、アリストテレスは諸政体を概観し、それぞれの政体の長所と短所を議論している。
要約Document in Brief:『政治学』では理想的国家の性質と、政府の改善と存続に資する事柄を論じている。
 
本文:省略
 
史料分析Analyzing the Document:上記の抜粋を参考にして、以下の問いに答えよ。
  1. 一人以上ではあるが、大勢の人間が治める訳ではない統治の形態は、ーとして知られている。
  1. 王政or君主政
  2. 貴族政
  3. 立憲政治
  4. 僭主政
  1. アリストテレスが貴族政治の堕落した形態として描いているのは次のうちどれか。
  1. 僭主政
  2. 寡頭政
  3. 君主政
  4. 民主政
  1. C.T. Identifying Main Ideas
アリストテレスが「人は生来政治的動物である」と言うとき、どのようなことをつたえようとしているのか。
 
 
以下、ブログ投稿者のコメント。
 文化史は難しい。教科書には著者とその作品、時代背景との関連が若干書かれているが、具体的な論証・引用は一切なされていないため、教員が補足する必要が出てくる。しかし入試ではほとんど扱われないから、ここに時間をかけると年間の授業計画が圧迫されるのは目に見えている。しかし著者とその時代・社会の関連をきちんと資料を引用して授業を構成しようとすれば、短時間で終わらせるのは不可能に思える。それでいて、教科書に記載されている人物と作品は文字通りリスト化されるほどいる。
 なんとか時間をやりくりし、該当する文化史の時間を1~2時間ひねり出すことができたとして、どう授業を展開すべきか。現実的に、教科書にのっている人物と作品をすべて取り上げるのは不可能である。というか作品をすべて読んでいる教員はごくまれであろう。作品を学ぶことを通じて、その時代や社会に対する認識をより深めることができる、かつ生徒にとっても読みやすい作品を選定する必要がある。言葉にするのは簡単だが、実践するのは極めて難しいと感じている。
 あまり多くの実践に目を通したわけではないが、古代ギリシアの文化史では、ギリシア神話や悲劇を取り上げたものが多いように思われる。『オイディプス王』などは一般教養としてもぜひ知っておきたいものだし、ゲームなどでもよく取り上げられるからか、ギリシア神話に関しては生徒もある程度知識があり、関心を引きやすい。それぞれ古代ギリシアの宗教観を探ることができる、魅力的な史料である。
 一方で、必ず学習するアリストテレスプラトンといった人物は、世界史の授業では影が薄いように思われる。私自身、倫理など公民科で扱われるから、ということでほとんど名前だけしか紹介してこなかった。しかし後の時代への影響力を考えれば、この二人、特にアリストテレスをないがしろにするのはまずいと最近考えるようになった。イスラームやヨーロッパ中世の大学、12世紀ルネサンスなどアリストテレス関連の学習事項は多い。このあたりはアリストテレスの学問体系構築という点が重要になるが、古代ギリシャ史という文脈からは、上記のアメリカの教科書が掲載しているように、『政治学』などを取り上げたほうが、ポリスについての既習事項と結びつけやすいだろう。
 上記の引用は、そのまま日本の世界史授業でもなんとか利用できそうではある。私自身の現時点のアイデアとしては、アリストテレスの『政治学』と、アケメネス朝のダレイオスの政体論議を分析するというものである。どちらも民主政を否定しており、生徒に多様な見解へと目を向けさせるのに都合の良い史料ではないかと思う。恥ずかしながらアリストテレスをまともに読んでいないので絵に描いた餅になる可能性が極めて高いが…まずは読むことから始めようと思う。