授業実践:史料批判(インド大反乱)
【A】【B】はインド大反乱に関する資料である。以下の問いに答えよ。
【A】5月10日……第3騎兵連隊1の全員が武装反乱を起こした。そしてただちに1マイルもはなれた監獄をおそって……4000人の政治犯2を釈放した。これを見て第20連隊…も反乱をおこして兵舎に火をつけた。……警察隊3がかけつけてきたと思うと, これがたちまち反乱軍といっしょになって,兵営を襲撃した。同時にメーラト中から民衆4が刀と梶棒をもってあらわれた…兵舎,役所,郵便局,教会,官舎街の順序で襲撃5していった。役人6という役人は見つかりしだい殺され,…財産はすべてうばいとられた。(出典:綿引弘『100時間の世界史資料』139p)
問1 【A】の下線部1、2、3、4、6はそれぞれどの国の人々と考えられるか。
問2 【A】の下線部5について、なぜこれらの場所を、この順序で襲撃したか考察せよ。
問3 【A】の資料を作成したのはどのような人物と考えられるか。
【B】キリスト教徒1は王族2を見つけると誰でも容赦なく殺し,射殺し,絞首刑にした。それはこの他にたくさんの住民3を殺したやり方とまったく同じであった。……それからキリスト教徒は,デリー市の付近や郊外に住んでいる高官や貴族たち4を殺した。彼らの土地や財産や家屋敷,動産や財宝,武器や家財道具,馬や象,ラクダを横領した。……ついで目を,東方の村や都市に向けた。 ここで彼らはおそろしい状態をくりひろげた。大虐殺を行い,人々を絞り首にしたり射殺した。死が,たくさんの男や,バルダーを被っている女を襲い,数知れない人々が命を断たれた。何百何千もの人が,殺人と破壊の犠牲になった。(出典:綿引弘『100時間の世界史資料』139p)
問4 【B】の下線部1、2、3、4はそれぞれどの国の人々と考えられるか。
問5 【B】の資料はインド大反乱以前と以後、どちらの様子を示していると考えられるか。【B】の記述内容から根拠を示しつつ考察せよ。
問6 【B】の資料を作成したのはどのような人物と考えられるか。
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対象学年 3年生
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想定所要時間 20分
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教員のねらい
初歩的な史料批判を経験させる。
問1・4において史料のなかの語句の意味を特定させ、問2・5において史料の記述を歴史的文脈の中で考察させる。さらに問3・6において出典を意識させ、インド大反乱に対する視点の違いに気づかせる。
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想定難易度
インド大反乱のまとめとして行った授業で、問1・3・4・6は大反乱の原因や対立の構図を理解していればそれほど難しくない。一方で問2・5はより深い思考が要求されるため、躓く生徒も出てくると考えられる。
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実践してみた結果
想定通り、問2・5が難しいようであった。班で意見交換をすることを指示すると、活発な意見交換が行われた。「推理みたい」とある生徒が言っていたが、生徒たちは自分なりに根拠を上げて問2・5に取り組んでおり、教員としては生徒の前向きな姿勢にうれしくなった。
一方、問3や6においても、かなり躓く生徒が見受けられたのは意外だった。同一の事象の記述でも視点の違いなどにより全く異なってくるという、歴史学的に常識であることが、生徒には未知の領域であったようだ。「著者についての情報なんてなんも書いてないから、わかるわけない」という生徒の言葉は、こうした状況を裏付けていると思われる。
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改善策・課題
結局時間は20分ではとても終わらず、30分近くあってもまだ議論したりない様子であった。時間は想定外であったが、こうした短い史料でも活発な議論が行われたことは、史料の選定と問の作成がいかに重要か、改めて考えさせられた。たくさん史料を用いればよいというわけでもない。
この授業は3年生の半ばごろに行われたものであり、本来であれば基礎的な史料批判に対してはもっとはやくから取り組みたいところである。事前に史料批判の経験があれば、問3・6に戸惑うことはなかったであろう。今後はできるだけ2年生の早い時期に史料批判の経験を積ませておきたい。
また今回の史料は教員の側でいくつか手をいれ、特定の言葉を削って問1・4の問題を単なる抜出問題にならないようにした。情報が限られた結果、問2・5の活発な議論の際にも、逆に生徒の想像に枠をはめてしまうことを避けられたようである。生徒にどういうふうに史料を提示するか、どういうふうに史料を加工するか、このあたりは教員一人ひとりの技術の蓄積となっている、と思う。できればいくつかパターンを構築して、教員間で共有できるような知識にしたい。