世界史の糸

レオナルドやエジソンにはなれないけれど

ジェネラリストでもスペシャリストでもない、一教師の試行錯誤の記録。旧ブログ名:世界史の糸から改題しました。

紹介:Ellis, E. G., Esler, A., World History Connections to Today Teacher's Edition その4

以前紹介したアメリカの歴史教科書Ellis, E. G., Esler, A., World History Connections to Today Teacher's Edition,(Prentice Hall,1999)の、史料パート紹介の続き。
 
以下、該当文献からの引用。
 
概要:以下の史料はトゥキディデスの「歴史(ペロポネソス戦史)」からのもの。抜粋部はアテネの指導者ペリクレスによる、前431年スパルタとの戦争の初年における戦死者に向けた演説である。演説内で、ペリクレスはスパルタと対比しながら、アテネの民主制の優越性を述べている。
 
要約Document in Brief:アテネの指導者ペリクレスによるこの演説は、現代にいたるまで民主制の最も有名な弁護の一つである。
 
本文:省略
 
史料分析Analyzing the Document:上記の抜粋を参考にして、以下の問いに答えよ。
  1. ペリクレスは民主制を以下のような基盤に基いたシステムであると定義しているー
A 万人に対する平等な正義。
B 少数ではなく、すべての人の意見。
C 美と知。
D 公の場における自由な活動。
 
2.ペリクレスによれば、良き市民とはー
A 公の議論に全面的に参加する人々。
B 公の議論において沈黙する者。
C 議論によって生じる対処の遅れを是とせず果敢に行動する者。
D 自分の利益のために議論に出席するもの。
 
  1. C.T.Synthesizing Information
ペリクレスアテネは「ギリシアの教育だ」と述べているとき、彼はどういう意図でそのように言ったのか。
 
 
以下、ブログ投稿者のコメント。
 この本は教員向けの指導書であるため、さらに以下のようなディスカッション例が掲載されている。「ペリクレスは良き市民をどのように描こうとしているか?」
 上記の史料分析の内容と内容的にかなり重複しているようにも思えるが、生徒の解釈の可能性を広げるという意図から、4択だけの問題で終始してしまってはならないという配慮だろうか。授業時間の余裕を見て、臨機応変に教員に対応することを求めているのだろう。
 近年の歴史授業の実践例でも、討論や議論が増えてきている。特に絵画資料を使って、当時の社会や文化、作者の意図、民衆の心性といったものを議論を通して生徒が主体的に学ぶ、という実践が増えてきていると思う。
 こういった傾向自体は悪いことではない。だが実際に自分もやってみようとすると、様々な問題にぶつかる。基礎事項の講義のための時間の圧迫、不活発な議論、生徒の人間関係、特殊な配慮の必要な生徒…討論・議論の実践例は確かに参考になる。しかしそれに加えてこちらが知りたいのは、前述したような課題への対処法である。これらの課題への解決法が、不完全でもある程度は見通せていないと、討論・議論を多く導入していくことはためらわれてしまうのではないか。結果、研究授業などの機会に唐突に討論・議論を行うといった状況にもなりかねない。
 そういった状況において、このアメリカの歴史教科書の史料問題は一つの参考になる。4択問題で生徒の(気軽な)参加を促しつつ、史料に関連した考えさせる問題・クリティカルシンキングに取り組ませる。時間に応じて、ディスカッションも準備されている。現実の授業では生徒の理解に応じて追加の説明などを入れたりすることで時間が足りなくなることは珍しくないから、こういった弾力性のある授業プランは有効性が高いと思う。史料に対していくつかの問・アプローチを準備して授業に臨む。平凡かもしれないが、やはりこういった下準備が大切なのだと改めて思った。