世界史の糸

レオナルドやエジソンにはなれないけれど

ジェネラリストでもスペシャリストでもない、一教師の試行錯誤の記録。旧ブログ名:世界史の糸から改題しました。

紹介:Irish, J. P., Brun-Ozuna, B. S., Historical Thinking Skills: A Workbook for World History(W W Norton & Co Inc, 2016)

 シンキングツールに関する雑感で言及した、アメリカの学校向けのワークブックの紹介。
 
Irish, J. P., Brun-Ozuna, B. S., Historical Thinking Skills: A Workbook for World History(W W Norton & Co Inc, 2016).
 
 タイトルにあるように、日本でいう歴史的思考力を訓練するためのテキスト。同様のコンセプトで、ヨーロッパ史アメリカ史単体の本もあるようだ。
 序文を眺めると、Graphic Organizer、日本でいうシンキングツールを用いて生徒中心の授業を構成し、なおかつ論理的思考に基づき論述できるようにすることがこの本の目的であり、前回記事で書いた私のシンキングツール利用の目的と合致している。実際、日本の世界史教育でも大いに参考にできそうな内容になっている。
 この本に採録されているシンキングツールはCausation因果関係、Comparison比較、Defining the Period時期を特定する、Contextualization and Synthesis文脈化と統合、Turning Points転換点、Continuity and Change連続性と変化、Argumentation論証、Interpretation解釈、Chronological Reasoning年代順の並び替え、の9つ。
 例えば転換点というシンキングツールはこんなようなものになっている。

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転換点
 9つのシンキングツールを見ると、総じて歴史を広い視野から考察、まとめるという傾向が強いように思う。特に文脈化と統合・転換点・連続性と変化・年代順の並び替えといったシンキングツールは地理的にも時間的にもかなり広範囲をテーマに扱った事例も多く、そうしたテーマは慣れない生徒にとっては難易度が高いだろう。実施する時期も限定されるため、もう少し柔軟に、日ごろから気軽に活用できるとありがたい。比較・時期を特定する・論証・解釈といったシンキングツールは時期や対象を絞っても活用しやすいと思う。とはいえ、結局は使いどころ、テーマ設定など教師の工夫次第でどのシンキングツールも有用なものになるだろう。この本はワークブックのため、上記の図のように具体的な単元やテーマにおいてどのシンキングツールを使うかがすべて定められている。どのテーマでどのシンキングツールを使うべきか、一つの指針になるのではないか。
 私の授業では比較のシンキングツールを使ってみたが、予想以上にしっかり取り組んでいた。比較のシンキングツールは要するに単なるベン図なのだが、このワークブックでは「類似点の理由」「相違点の理由」を記述させるという一工夫がなされており、これがなかなか生徒には難しくも、より深い思考を促していることが生徒の記述から読み取れた。よくよく読み込んでみると、このワークブックに採録されているシンキングツールはそうした工夫が随所になされているため、自分でシンキングツールを利用するときに大いに参考にしたいところである。
 今後はほかのシンキングツールも実践し、その結果を共有していきたい。特に一次史料・二次資料を多く授業で活用していきたい私としては、論証や解釈といったシンキングツールは興味深い。授業準備がまた楽しくなりそうである。