世界史の糸

レオナルドやエジソンにはなれないけれど

ジェネラリストでもスペシャリストでもない、一教師の試行錯誤の記録。旧ブログ名:世界史の糸から改題しました。

紹介:Counsell,C., History and Literacy in Y7 文学作品は歴史教育にいかに活用されるべきか、イギリスの事例

 
    • Christine Counsell, History and Literacy in Y7: Building the Lesson around the Text ( John Murray, 2004)
 文学作品の活用について、イギリスにおける歴史教育の文献を見つけた。著者はイギリス中等学校での教員経験を持ち、歴史教育を通じたリテラシ―能力の育成が専門の一つらしく、この文献でもその知見が発揮されている。本文献での実践は特に文学作品に限定されているわけではないのだが、文学作品の授業への活用が大きな比重を占めている実践がいくつか収録されているため、ざっと目を通してみたところ、なかなか面白い内容だった。細かな実践方法・方法論を記すと長くなるため、簡潔に感想を記す。
 
    • 扱っている作品
 この文献で扱われている文学作品は、
ホラティウス『風刺詩』
Crossley-Holland, K., Arthur: The Seeing Stone(Orion Publishing Group,2000)(邦訳は『少年騎士アーサーの冒険』)
アイリーン・パウア『中世の女性たち』である。
 
    • テキストの読解に焦点を当てた授業
 一読して特徴的であるのは、いかに作品を味わうか、著者の文体を解析したり、自ら文章を作るなど、生徒が取り組む作業が幅広いことである。これらは日本ではどちらかといえば国語などの教科が扱う範囲かもしれない。歴史教育においてここまで資料・史料の文言にこだわった実践は、私はあまり知らない。だが、歴史認識の形成も含めた学びの多くが言語を通じて行われるということを念頭におけば、世界史といえどもリテラシー育成の観点を欠いた指導で良しとすることはできないであろう。著者の実践はそうしたリテラシー指導の観点から、多くの参考になる点があるのではないかと思う。
 
 これまで私は資料・史料問題を、主に実証主義的観点から作成してきた。すなわち教科書における知識が、問題を解くことを通じて実証されることを念頭に問題を作成してきた。しかし著者の実践を読んで、よりメタ分析の方向に指導をシフトすることの必要性を感じた。アメリカの歴史教育実践などでも顕著であるが、資料・史料の文言読み解きにとどまらず、資料・史料作成の意図や多様な読み解き観点の設定などが通常の授業の中で実践されている。日本の世界史教育でも、こうした指導方法を検討してみるべきだろう。
 この文献の詳しい内容に関しては、今後機会があればさらに詳しく紹介していきたい。また自分でも著者の実践を参考にしながら、文学作品による授業の体系化に挑戦していきたい。